沖縄には「ヒィーザン」(火の山)と呼称される山ないし小高い丘が各地に点在している。ヒィーザンと称するぐらいだから、噴火山のことだと思うのだが、実はそうではない。
ヒィーザンから火の玉が飛び散って、火災などの災難をひき起こすというのである。少なくとも、そう信じられてきた。
そこが沖縄的でおもしろいのだが、ヒィーザンのある村々では、火災などの災難に備えることになった。それが、今日その跡を残す防火のための「池」(防火池)であり、火を喰うという俗信まで生み出した「石獅子」(シーサー)の設置であった。
その代表格が、村獅子の先がけとなった「富盛の石彫大獅子」(東風平 一六八〇年代)である。
頻発する火災で被害を受けた富盛集落の人びとは、フンシーミー(風水看)の見立てにより、当時からヒィーザンとして恐れられていた八重瀬岳に向けて、石獅子を設置することにした。
村人たちは、火災の原因を人智ではうかがい知ることのできない邪悪なもののせいだと考えた。依頼を受けたフンシーミーは、中国伝来の風水(フンシー)の知識をもとに、中国の民間信仰の一つであった魔よけとしての獅子像の設置を提案した。結果として、災難を防ぐことができた。
設置した石獅子が、ヒーゲーシの役目を果たしたと村人が信じたのは当然のことであった。
富盛の石彫大獅子の鋭い眼光の先には、ヒィーザンである八重瀬岳があるが、見据えているのは村に災難をもたらす邪悪なもの、悪鬼・悪霊なのであろう。それだからこそ、石彫大獅子は、「ヒーゲーシ」であると同時に、邪悪なものの村への侵入を防ぐ「魔よけ」ともなったし、村を守護する「守り神」の役目も果たしていると信じられてきたのであろう。
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