建築儀礼のひとつに、「棟上げ」(ンニアギ)と称される上棟式がある。
その際に、棟木に「天官賜福 紫微鑾駕」(たんに「紫微鑾駕」とする地域も)と墨書きする習俗があった。
地域によっては、短冊型の棟札にそれらの文字を墨書きし、棟木に打ちつけるところもあった。そして、棟木や棟札には紅白の紙で包んだ米と塩二つ、真ん中に木炭を昆布で巻いたものを吊り下げた。
墨書きされた文字の意味は、中国人のすぐれた棟梁名だとか、大工名などと伝えられ、信じられていたようである。果たしてそうだろうか。
当初中国では、天を司る神さま程度の意味合いで使用されていた「天官」ということばがいつしか、人々に幸福を授ける神「上元一品天官賜福大帝」とよばれるようになったという。
沖縄の上棟式の際に墨書きされる「天官賜福」とは、この神さまのことをさしており、人びとに幸福をもたらしてくれる神の名前だということになる。
次に「紫微鑾駕」の「紫微」は、天の紫微宮に住む大帝(万物を支配する神)のことである。
道教では、北極星は天帝にたとえられて「北極大帝」とよばれている。「鑾駕」は天子の乗る輿(こし)である。つまりは、「北極大帝が輿に乗ってやってくる」という意味である。
新築の家に、輿に乗った天官や北極大帝がやってきて、家を守り栄えさせてほしいというまじないのことばである。
家に嘉利をつけ、家族に幸福を授けてください、という家主の心情をあらわすものであったといえよう。
また、米や塩、木炭を昆布で巻いたものを吊り下げたのは、家・屋敷に悪鬼・悪霊などが寄りつかないように、という魔よけの意味が込められていた。
© 2024 mugisha All rights reserved.