余計なものをそぎ落として描かれた絵画の中の赤瓦屋根の民家は、失われたものへの郷愁をイメージ化させたものとはいえ、やはり美しい。だからこそ、沖縄民家の原風景を象徴するモチーフとして、今なお色褪せない魅力を持っているのであろう。
しかし、赤瓦屋根の下で営々として営まれてきた人びとの暮らしの息吹を伝えるものに、遭遇できるのはめったにない。画家のそぎ落としたものの中にこそ、日々の生活の気配が感じられ、温もりがあり、風土の醸し出す独特の匂いがあるはずなのに。
「うちなー風景」では、余計なものとしてそぎ落とされてきたものの中から、暮らしの息遣いを今日までやんわりと伝えてきたものをいくつか取り上げていく。
古来より沖縄では、家族がともに暮らしを営む家は、直接目にすることのできない魔の力に脅かされていると考えられてきた。その魔の力こそが、「ヤナカジ・シタナカジ」(悪風・よごれた風)として何よりも忌み嫌われてきた悪鬼・悪霊である。
ヤナカジ・シタナカジの家・屋敷への侵入を防ぎ、災厄から家と家族を守るためにさまざまな工夫を凝らし、防御策を講じてきた。それが「ムンヌキムン」と称される種々の呪物である。その一方で、同じく目に見えない大きな力によって家・屋敷は守護されていると信じられてきた。それが、「ウヤグヮンス」(祖霊)であり、唯一の家の守り神とされてきた「ヒヌカン」(火の神)である。
次回からは、種々の呪物と家・屋敷の守り神について話をすすめていくこととする。
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